
「日本×ウェルネス」の真価とは? 世界で輝くための未来戦略

「日本×ウェルネス」の真価とは? 世界で輝くための未来戦略
観光地のブランド力を高め、訪問意欲を喚起するうえで欠かせない存在であるSNS(ソーシャルメディア)。特にInstagramやTikTok、UGC(ユーザー生成コンテンツ)を活用したキャンペーンは、限られた予算でも高い効果を発揮し、来訪者数の増加やイメージ刷新を実現する強力なツールといえます。
本記事では、フィンランド、アラバマ州、ハワイなど、世界各地の観光局やDMOが手がけたSNSマーケティングの成功事例をとりあげます。「幸せはスキルとして学べる」と提唱したフィンランドの体験型キャンペーン、五感に訴えるアラバマ州のフォトコンテストなど成果に裏打ちされたアイデアを、KPIや成功要因など解説付きでまとめました。
観光DXやデジタルプロモーションを進める中で欠かせないSNS活用のヒントが見つかるかもしれません。
1. フィンランド政府観光局 – Masterclass of Happiness 世界一幸せな国フィンランドの幸福体験キャンペーン

◎概要
「Masterclass of Happiness(幸福マスタークラス)」は、フィンランド政府観光局(Visit Finland)が企画したブランディング・マーケティング施策です。パンデミック以降の観光需要回復を見据え、フィンランドが「世界一幸せな国」として知られる点に着目し、その“幸福の秘訣”を学べる体験型プログラムとして展開されました。参加者に対して、幸福は生まれ持った資質ではなく「学べるスキル」であると提唱し、フィンランドらしいライフスタイルを通じて心身のバランスを整える方法を紹介しました。最初は14名をフィンランドに招いてのライブ開催でスタートし、その後はオンライン教材として世界中の人が自由にアクセスできる形へと拡張されました。(Find your inner Finn)
◎フォーマット
このキャンペーンは、オンライン・オフラインを横断する多様なメディアフォーマットで展開されました。まず、特設ランディングページや学習用のWebコンテンツなどを通じた自社メディアでの情報発信が行われ、SNSでは「#FindYourInnerFinn」などのハッシュタグを用いて参加型の応募キャンペーンが実施されました。また、YouTubeではライブマスタークラスのダイジェスト映像を公開し、感情的な訴求を強めるビジュアルストーリーテリングを展開。さらに、国際的なPR活動を通じて幸福度に関する調査結果を発信し、多くのメディア露出を獲得しました。加えて、SNS上では一般ユーザーの参加やシェアによって自然な広がりが生まれ、ユーザー生成コンテンツ(UGC)としての拡散効果も狙われました。
◎主なKPI
このプロジェクトは明確な成果指標に基づいて展開されました。まず、SNSで実施した参加者募集には約15万件もの応募が集まり、大きな関心を示しました。キャンペーンは世界190カ国以上に拡散し、2,500件を超えるメディア掲載を達成。TikTokでは関連ハッシュタグの再生数が750万回を超え、公式ウェブサイトへのアクセスも通常時の350%増を記録しました。いずれの数値も当初の目標を大きく上回る成果となり、世界的な話題喚起とフィンランド観光の認知向上に大きく貢献しました。
◎成功要因
- 国の強みを感情価値に転換したブランディング戦略
フィンランドが「世界一幸せな国」であるという国際的な評価(国連世界幸福度ランキング1位)を、単なる観光素材ではなく、「誰もが学べる幸福のスキル」として再解釈した点が極めてユニークでした。これは観光地の“魅力を見せる”のではなく、“その魅力で何を得られるか”を伝えるアプローチです。「幸福」という感情的価値に焦点を当てることで、旅行を検討していない層にも共感を呼び、より広範な興味喚起に成功しました。 - 少人数のリアル体験からグローバル展開への拡張性設計
当初14名の参加者によるリアルな「マスタークラス」を起点とし、その内容をオンラインコンテンツ化して誰もがアクセス可能にするという、スモールスタート→マス展開の設計が非常に効果的でした。体験者のリアルな反応やストーリーが「証拠」として機能し、それがSNSや動画を通じて拡散されることで信頼性と熱量のあるプロモーションに進化しました。フィジカルイベントをデジタル資産化するこの手法は、コスト効率とインパクトの両立に貢献しています。 - 社会的課題を踏まえた深いインサイトの導入
「45%の人が幸福の感覚を忘れている」という調査結果を出発点とし、単なる観光キャンペーンにとどまらず、現代社会が抱える“心の課題”に対する提案として本施策を位置づけた点も成功の鍵でした。これにより、「観光の話」から「自分ごと」へと関心を引き寄せ、多くの人の共感とメディアバリューを生み出しました。また、幸福を“文化や習慣”ではなく“学べるスキル”として紹介した点が、多国籍な受け手にとって受容しやすいユニバーサルなメッセージとなりました。
2. アラバマ州観光局 – 五感をテーマとしたInstagramフォトコンテスト

◎概要
アラバマ州観光局(Alabama Tourism Department)は州の多様な魅力を発信し、訪問者に旅行体験をSNSで共有してもらうため、2018年末にInstagramで五感をテーマにしたフォトコンテストを実施しました。広告代理店Intermarkと組み、食なら「#TasteOfAlabama」、風景なら「#SightOfAlabama」など五感に対応した5つの公式ハッシュタグを設定し、訪問者投稿を促進しました。各カテゴリーの優秀投稿者には地元特産品の詰め合わせを進呈し、さらに最終的なグランプリには4人分のアラバマ旅行が当たる企画でした。キャンペーン期間中に計800件以上の投稿応募がありました
◎フォーマット
Instagramのフィード投稿(写真)によるUGCコンテスト形式です。参加者自身のアカウントから指定ハッシュタグを付けて写真を投稿する形を取り、Instagram上で自然発生的な拡散を図りました。観光局側ではCrowdRiffなどUGC収集プラットフォームも活用し、応募写真を専用のキャンペーンページやギャラリーで紹介しました。また公式Instagramアカウント(@alabamatravel)でもユーザー投稿をリポストしながらキャンペーンを盛り上げました。
◎主なKPI
コンテスト開催中、アラバマ観光局のSNSエンゲージメントは大幅に向上しました。SNSフォロワー数は13%増加し、エンゲージメント(いいね・コメント等)も48%増加という成果を上げました。UGC応募数も800件を超え、質の高い写真コンテンツのストックを獲得しています。またキャンペーン終了後、公式SNS経由で集まった写真を観光局ウェブサイト上のギャラリーで四季や時間帯別に表示し、さらなるユーザー関与を促しました。
◎成功要因
- 多様性を「五感ハッシュタグ」で可視化し、固定観念を打破
アラバマ観光の課題は「公民権運動の歴史」「ゴルフ天国」など、一面的なイメージに縛られてしまうことでした。そこでキャンペーンでは、五感ごとにハッシュタグを分け、投稿テーマを自然に誘導。これにより海・山・都市・食・カルチャーといった異なる魅力が並列に可視化され、州の多彩さを来訪者自身の写真で証明できました。「自分が知らないアラバマもある」という気づきを生み、観光対象を広げた点が大きな突破口になっています。 - UGCを核にした参加型コンテスト設計
ハッシュタグ投稿をただ促すのではなく、五感別フォトコンテスト→最優秀作品への旅行招待→フォトブック無償送付など、段階的なインセンティブを用意したことで、ユーザーの参加を促進しました。外部ツールによりハッシュタグを自動収集・分類し、ウェブギャラリーに即座に反映できたため、運営側の負荷も低いまま大量のUGCを獲得。結果として複数のKPIを達成し、資産としてのビジュアル素材も大幅に拡充しました。 - リアルタイムに変化する動的ギャラリーで“今そこにいる感”を演出
新サイトのトップページには「日の出」「昼」「夕暮れ」「夜景」の4つのUGCギャラリーを用意し、閲覧者のローカル時間に合わせて自動切替えを実装。時間帯と結びついた実写イメージが表示されることで、ユーザーはスクリーン越しに“その瞬間のアラバマ”を疑似体験できます。静的な観光写真よりも臨場感が高く、「自分も同じ景色を撮ってみたい」という再訪・再投稿のモチベーションを生む仕組みです。動的コンテンツがSNSと循環し、継続的なUGCの流入とブランドエンゲージメント向上を支えています。
3. ハワイ州観光局 – UGCキャンペーン#LetHawaiiHappen

◎概要
ハワイ州観光局(Hawaii Vistors and Convention Bureau, HVCB)は、ハワイ旅行の魅力を現地の人々や旅行者の視点で発信するため、「#LetHawaiiHappen」というキャンペーンを展開しました。このキャンペーンの狙いは、「ハワイと言えばビーチ」といったステレオタイプに留まらず、「思いがけない体験や旅先でのサプライズ」に焦点を当てて旅行者を惹きつけることでした。現地の文化や人とのふれあいなど、隠れた魅力を投稿を通じて共有してもらうことで、ハワイへの興味喚起を図りました。期間は2015年前後から継続的に行われ、LGBTQカップルのサプライズ結婚式を演出する動画企画などロマンティック層向けの施策も含めて展開されました。(mavsocial.com, shortyawards.com)
◎フォーマット
主にInstagramおよびTwitter上で公式ハッシュタグ「#LetHawaiiHappen」を使い、ユーザーから写真・動画・体験談の投稿を募るUGCキャンペーン形式です。集まった投稿は観光局の公式SNSで随時リポストされ、優れた投稿はプロモーション素材としても二次利用されました。Instagramでは美しい風景だけでなく人々が現地で楽しむ様子など多様な写真がタグ付きでシェアされ、キャンペーン専用のハイライトやストーリーズでも紹介されました。予算をかけずオーガニック投稿を促す「ローコスト施策」として位置付けられており、SNS上での自然な拡散効果を狙いました。
◎主なKPI
本キャンペーンは明確な数値目標というより、UGC拡散によるブランドエンゲージメント向上が目的でしたが、その成果はハッシュタグの広がりに表れています。キャンペーン開始後、ハッシュタグ「#LetHawaiiHappen」を付けた投稿が数多く生まれ、選りすぐりの投稿6件が公式プロモーションにも採用されました。正式な集計値は公開されていないものの、HVCBはこの取り組みにより「旅行者と住民が自分たちの言葉と写真でハワイを紹介する流れを創り出すことができた」と評価しています。またユーザー参加型のUGC施策によりハワイへの関心醸成に成功した例として挙げられています。
◎成功要因
- シンプルなコピーと参加導線
ハッシュタグ「Let Hawaii Happen(ハワイに身を任せよう)」という自然なコピーが旅行者や地元住民の心に響き、自分の体験を共有したいという欲求を喚起しました。難しい応募手順もなく、タグを付けて投稿するだけという手軽さも参加ハードルを下げました。 - UGCの積極活用
ユーザー投稿を公式が頻繁に取り上げることで投稿者側にとっては承認と露出の機会となり、キャンペーンへの愛着が生まれました。この双方向コミュニケーションがコミュニティ形成につながり、結果的に継続的なエンゲージメントを実現しました。 - ストーリーテリング
単に美しい写真だけでなく、「ハワイで予期せず起こる素敵な瞬間」という物語性を持たせた点が功を奏しました。実際にサプライズ結婚式を仕掛けてその様子を映像化するなど、感動的なコンテンツで話題性を醸成しつつ、キャンペーン全体のテーマを強化しました。これらの要因により、#LetHawaiiHappenは低コストながら参加者の心を掴んだ成功事例となりました。
4. スタントン市(米国バージニア州) – 「春のバケットリスト」キャンペーン

◎概要
米バージニア州スタントン市の観光局(Visit Staunton)は、観光のオフシーズンである春の集客を狙い「Staunton Spring Bucket List(スタントン春のバケットリスト)」キャンペーンを実施しました。期間は春季(例年3~5月頃)で、スタントンや周辺で体験できる11個のユニークなアクティビティ(「幽霊探し」「洞窟探検」「野外映画鑑賞」等)をリスト化し、それを旅行者にチェックインさせる形で訪問を促すという狙いです。地元ビジネスの閑散期支援と、市の魅力発信を両立させた施策でした。
◎フォーマット
InstagramやFacebookなど複数のSNSを横断したデジタルキャンペーンの形式で実施されました。各バケットリスト項目に対応する写真はユーザーの過去の投稿(UGC)から選定され、公式SNSで紹介されました。Instagramではリールやストーリーズでリストを順次発信し、Facebookではスライドショー動画やInstant Experience(全画面広告)形式で体験リストを見せています。さらにFacebookのリード獲得広告を活用し、「メール登録すると抽選で地元旅行が当たる」と訴求してニュースレター登録も募りました。魅力的な体験リストを提示し、SNS上でのエンゲージメント喚起に加え、ニュースレターへの登録による将来訪問客の囲い込みまで、一連の仕組みをデジタル上で展開しました。
◎主なKPI
このキャンペーンは大きな反響を呼び、SNSエンゲージメントと見込み客獲得の両面で成果を上げました。まずニュースレター登録は1,200件増加し、18%の購読者の増加を達成しました。またキャンペーン関連のリンククリック数は21,000以上、インプレッション数は85万回超にのぼり、スタントン周辺のパートナー施設へのウェブ誘導も500件以上発生しました。Facebook Instant Experienceでは平均閲覧時間約2分と、ユーザーがコンテンツに没頭する様子も確認されています。
◎成功要因
- 巧妙なコンテンツ戦略
「バケットリスト」という形式で体験をリストアップしたことで、ユーザーに「全部制覇したい」というゲーミフィケーション的な動機付けを与えました。またリスト内容自体もユニークで話題性があり、「幽霊を追いかける」「刑務所に一夜収容される脱出ゲーム」など、シェアしたくなるような内容でした。 - マルチチャネルでのCTA設計
Facebook Instant Experiences、Instagram、Facebookスライドショービデオ、Instagramストーリーズ、リターゲティングなど、複数のソーシャルメディアプラットフォームで展開し、た複数のプラットフォームとフォーマットを組み合わせて幅広いオーディエンスにリーチしました。